陰影はイラスト制作において立体感やリアリティを出すためには欠かせないものですが、どう付ければよいか迷うことも多いのではないでしょうか?
一口に陰影と言っても実は発生原理ごとに切り分けることができ、これを理解しておくと陰影を付ける際の助けになります。
そこでこの記事では、陰影を以下の6つの要素に切り分けて解説していきます。
![陰影の要素](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/shadow-light.jpg)
今回説明で使用するイラストのレイヤー未統合データは以下から無料ダウンロードできますので実際に塗る際の参考にしていただければと思います。
フォームシャドウ
まず一つ目に説明するのがフォームシャドウ(form shadow)と呼ばれる"かげ"で、漢字表記だと「陰」の方の"かげ"です。
フォームシャドウは光源の向きと物体自身の形状により光が届かず物体表面にできる陰のことを指します。
以下はある物体に光が当たったときのフォームシャドウを表しています。
![物体と光源](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/object-3.jpg)
![フォームシャドウ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/form-shadow.jpg)
ここで補足ですが、大気がない宇宙空間においては光源からの直進光が当たらない面は明度が0となり真っ暗になります。
一方で、大気がある空間では大気中の粒子や分子によって光が拡散され大気が巨大なディフューザーの役割を果たすため、物体は全方位から拡散光を浴びることになります。
そのため地球上のシーンを考えた場合には、光源からの直進光が当たらない面にもある程度の明度を持たせた方が自然な見え方になります。
![大気によって拡散される光](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/diffusion-light.jpg)
![宇宙におけるフォームシャドウ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/form-shadow-space.jpg)
立方体のフォームシャドウは光源との位置関係によって各面の明るさが変わりますが、ここで各面の明るさを判断するときに使える照度というものも合わせて紹介しておきます。
照度は、光源によって照らされている物体表面の明るさを表す物理量で定義としては「単位面積あたりに入射する光束量」なのですが、簡単に言うと「ある領域面における光線の本数」を表しています。
強い光源からの光ほど光線の密度が高くなるのですが、下の図では円状の領域内に入る光線の数が左の面の方が多いので、左の面の方が明るく見えます。
![照度が異なる2つの面](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/illuminance-1.jpg)
では次に同じ光線密度の光を正面で受けた場合と斜めに受けた場合を考えてみましょう。
すると下の図からわかるように、光を斜めに受けた面の方が領域内における光線の本数が少なくなるので暗く見えます。
またこの図からは光線に対して面が傾くほど面の明るさは暗くなるということが推測できます。
![光を斜めに受けた場合の照度](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/illuminance-2.jpg)
そのため立方体の各面の明るさを判断したいときには、光源からの光線が面に対してどれくらいの角度で当たっているかを考えることで判断することができます。
![面ごとの照度](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/illuminance-3.jpg)
基本的に物体表面においては下の図のように多くの光が拡散反射され、物体表面の明るさは観察者の視点によらないので、照度で物体表面の明るさを考えることができます。
ただし金属などの反射率の高い物体においては正反射(鏡面反射)される光が多くなり、観測者の視点によっても物体表面の明るさは変わるので注意が必要です。
![正反射と拡散反射](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/illuminance-4.jpg)
ここで説明した照度としての明るさの考え方は、3DCGやイラストの解説においてランベルトの余弦則として紹介されることもあります。
オクルージョンシャドウ
次に説明するのがオクルージョンシャドウ(occlusion shadow)で、アンビエントオクルージョン(ambient occlusion)や本影(ほんえい)と呼ばれることもあります。
オクルージョンは遮蔽という意味で、物体同士が接している境界部分は光が届かないためかげになるというものです。
先ほど説明したように大気のある場所においてはあらゆる物体が拡散光を全方位から受けている状態です。そのため、下の図のように物体同士が隣接している境界部分では拡散光が届きにくくなりかげになります。
![均一な拡散光](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/occulusion-shadow-2.jpg)
![拡散光が遮蔽される様子](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/occulusion-shadow-3.jpg)
以下は物体にオクルージョンシャドウを加えたものです。
![フォームシャドウとオクルージョンシャドウ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/occulusion-shadow-1.jpg)
![オクルージョンシャドウ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/occulusion-shadow.jpg)
キャストシャドウ
キャストシャドウ(cast shadow)は漢字表記だと「影」の方の"かげ"で、投影(とうえい)、落ち影とも呼ばれます。
キャストシャドウは光の直進が物体で遮られることで生じる影のことを指します。
特徴として、物体に近い根本ほど影の輪郭がはっきりしていて、遠ざかるほどぼやけていきます。
また、晴れの日の太陽やスポットライトように点からのシャープな光の下では影の輪郭ははっきりし、曇りの日の太陽のように面からのソフトな光の下では輪郭はぼやけます。
![キャストシャドウ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/cast-shadow.jpg)
キャストシャドウの輪郭がぼける原因は、光源の大きさと距離にあります。
光源が大きさをもつ場合、下の図のように光源内の光が発せられる位置ごとにキャストシャドウの輪郭が異なります。つまり光源が大きいほど輪郭のぼけは大きくなります。
下の図からは輪郭のぼけは物体の根本ほど小さく、物体と光源の距離が近いほど大きくなることもわかります。
点光源であればキャストシャドウの輪郭はひとつに定まるのでこのような輪郭のぼけは生じません。
ただ太陽もはるか遠くにあるとは言え点光源とはみなせないため、日常環境におけるほとんどのキャストシャドウはこのような特徴をもつことになります。
![キャストシャドウのエッジ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/cast-shadow-edge.jpg)
キャストシャドウは透視図法(パース)を使って描くことができ、ここからはその手順を解説します。
光源が近くにある場合(室内の照明など)
- 光源から地面に垂線を下ろし影の消失点をとります。
- 影の消失点と物体と地面との接地点を通る直線を引きます。
- 光源と物体の頂点を通る直線を引き、②の直線との交点を結べばキャストシャドウになります。
![キャストシャドウの描き方](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/cast-shadow-1.jpg)
光源が遠くにある場合(屋外の太陽光)
- アイレベル上に任意の影の消失点をとります。
- 影の消失点と物体と地面との接地点を通る直線を引きます。
- 影の消失点を通りアイレベルに垂直な直線上に太陽光の消失点をとり、これと物体の頂点を通る直線を引き②の直線との交点を結べばキャストシャドウになります。
光源が視点の背後にある場合
上の③において、アイレベルよりも下に太陽光の消失点をとることでキャストシャドウが描けます。
フォールオフ
次に説明するのがフォールオフ(fall off)で、光の減衰のことを指します。
下の図のように点光源から発せられる光は放射状に広がるため、光源から距離が離れるほど物体に届く光は少なくなります。
![点光源のフォールオフ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/fall-off-5.jpg)
この距離による光量の減衰のことをフォールオフと言い、物体に反映させると以下のようになります。
![フォールオフなし](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/fall-off-1.jpg)
![フォールオフあり](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/fall-off-2.jpg)
![フォールオフのみ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/fall-off-4.jpg)
一方で、太陽光は光源である太陽がほぼ無限遠にあるため平行光とみなせます。
下の図のように平行光のおいては光源との距離が変化しても物体に届く光は変化しません。
![平行光のフォールオフ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/fall-off-6.jpg)
つまり、太陽光においてはフォールオフは生じないと言えます。
ハイライト
ここまではかげについて説明してきましたが、ここからは光にも注目してみます。
下のように光源が映り込むなどして最も明るくなった物体表面の領域はハイライト(highlight)と呼ばれます。
物体の反射率が高いほどハイライトは輪郭がはっきりしたものが現れます。
![キャストシャドウ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/cast-shadow.jpg)
![ハイライトあり](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/highlight-1.jpg)
![ハイライトのみ](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/highlight-3.jpg)
また現実ではどんな物体も完璧な直角で接合していることはなくある程度の丸みを持つため、面と面の接合部分にはハイライトが現れやすいと言えます。
![接合部のハイライト](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/highlight-5.jpg)
反射光
物体は光源からの光だけではなく、光源からの光が別の物体に当たって跳ね返った光、つまり反射光の影響も受けます。
反射光はバウンス光(bounce light)と呼ばれることもあり、反射した物体の色を含みます。
以下は物体が受ける地面からの反射光に加え、キャストシャドウが受ける物体からの反射光を表したものになります。
![反射光なし](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/reflection-1.jpg)
![反射光あり](https://anyotete.com/wp-content/uploads/2024/02/reflection-2.jpg)
反射する物体の反射率が高いほど反射光は強くなります。