構図はイラストや写真の印象を決めるとても重要な要素であり、構図の考え方を身に付けると自分の意図を画を通して伝えやすくなります。
この記事では、イラストレーターである筆者が構図の考え方について解説します。
構図とは?
まずはじめに構図とはそもそも何でしょうか。
定義は色々あると思いますが、この記事では構図とは「画面内の要素の配置」と定義します。
そして、良い構図とは「見る人の視線を画面内に長く留めさせる構図」と定義します。
ここからはこの定義を前提に、良い構図にするにはどうすれば良いかを説明していきます。
視線を誘導できる要素
どうすれば見る人の視線を画面内に留めることができるでしょうか。
見る人の視線をコントロールすることができればそれが可能になるかもしれません。
もちろん完全に人の視線をコントロールすることは不可能ですが、画面内の要素の配置つまり構図を工夫すればそれとなしに誘導することは可能です。
ではどうすれば見る人の視線を誘導できるでしょうか。
それを理解するためには、まず「視線を誘導できる要素」について知る必要があります。
視線を誘導できる要素には大きく分けて以下の4つがあります。
- オブジェクト
- 粒度の変化
- 明るさの変化
- 画面内の流れ
オブジェクト
オブジェクトは画面内の人物や物など形のあるもの全般を指します。
画面内に占める大きさが大きかったり、周囲と形状の異なるオブジェクトは見る人の目を引きます。
例えば下のイラストでは人物、入道雲、バス停の標識が目を引く要素となっています。
粒度の変化
大きいものから小さいものへ、粗いものから細かいものへと視線は誘導されます。
下のイラストでは大きな雲の中でもタッチの細かい部分に視線が動きます。
明るさの変化
明暗の差がある部分に視線が誘導されます。
下のイラストでは空と雲の一部は周りに対して明るいため視線を集めます。
下のイラストでは暗い商店街のアーケードとの対比で奥の景色に視線が行きます。
画面内の流れ
風向き、日差し、人物の視線、パースなど画面内の流れによっても見る人の視線は誘導されます。
下のイラストでは人物の奥方向への視線、鳥によって表現された風向きに沿って視線が動きます。
要素でループをつくる
上で説明した視線を誘導できる要素の配置を工夫することで、見る人の視線を画面内に留めることができます。
ではどのように要素を配置すれば良いかというと、要素でループを作ることで視線が画面内に留まるようにします。
ループは例えば下のようにS、逆S、C、逆C、O型を組み合わせて作るのがポイントです。視線の導入点は画面下とし、そこを起点にループを作ります。
ここからは実際のイラストを例に見てみましょう。
上のイラストでは配管から雲の流れまでで逆S型を形成した後、C型で導入点に戻しループとしています。
ここで、配管、人物、雲は奥行き方向でそれぞれ異なる平面上にあります。要素を配置するときには、このように手前から奥への動線を作ってあげると画面に奥行き感が生まれます。
また視線を誘導できる要素を使う上での注意点として、オブジェクトは視線を強く引くため多用は避けましょう。
オブジェクトの使用は多くても3つまでにし、その他の要素との組み合わせでループを作った方が見やすい画面になります。このイラストでは、手前の構造物の無機質さと雲の壮大さから人物の孤独感を表現したかったため、配管、人物、雲を動線の主要ポイントとしています。
このイラストでは手前の机から奥の入道雲まででS型を形成した後、逆C型で人物まで戻しループとしています。
視線は必ずしも導入点まで戻す必要はなく、このように途中の要素に戻してループとしてもOKです。
またこのイラストでは鳥の並びを使った緑矢印のようなサブループも形成しており、サブループを作ることでより見る人の視線を留めやすくなります。このイラストでは手前の室内と奥の海と雲との対比で室内の清涼感を出したかったため、あくまで赤線のループがメインで緑色はサブとして設計しています。
型の組み合わせに関しては、ひとつのループで同じ型は2回使わず、組み合わせる型も2種類までに抑えた方が見やすい画面になります。
ここまでで、見る人の視線を留めるために視線を誘導できる要素を使ってループを作る方法を説明してきました。
自身の好きな絵や写真にはどのようなループがあるのかを探してみても勉強になります。
このループの捉え方に絶対の正解はないので、今回説明したサブループをメインループとして捉えたり、別の角度から異なるループを見つける方もいるかもしれませんがそれで大丈夫です。描き手がしっかりと意思をもって、伝えたいことをどう伝えるかを考えながら構図を決めることが大切です。
伝統的な構図を活用しよう
ここまででどのように要素を配置すれば良いかについて解説しましたが、ではいきなり真っ白な状態から配置しましょうと言われたら難しく思う方も多いと思います。
ここで私たちを助けてくれるのが、先人たちによって考えられた伝統的な構図です。
以下は伝統的な構図の代表例です。これらは絵画やカメラの分野で古くから使われている構図です。
ここでは代表的な構図のひとつである三分割構図を使って実際のイラストを例に説明します。
三分割構図は画面の縦方向と横方向をそれぞれ三分割して考える構図で、この線の交点あるいは線上に沿って要素を配置します。
ただし、すべての交点に要素を配置する必要はありませんし、厳密に交点や線上に置く必要もないのであくまで目安として考えます。視線を誘導できる要素は散らして配置し画面全体を使ったループを形成した方が良いので、どう散らして配置するかの補助とすると良いでしょう。
上のイラストでは下の横線を水平線と合わせ、上の横線は雲の高さの基準としています。また左下の交点に人物、右上の交点に雲のタッチが細かい部分を置いています。
バス停の標識を右の縦線に合わせた方が良いのではと思うかもしれませんが、すべての要素を構図線に載せてしまうと画面が規則的で固くなってしまうため、あくまで視線のループを優先して適度にはずす工夫も必要です。
上のイラストでは右の縦線に沿って人物を、人物の視線の先が左上の交点に向かうよう配置しています。また左上の交点が奥のホームの屋根の角度が変わる点とし、そこから空が見えるようにしています。
三分割構図は安定した画面構成となるため、風景などの静的な画面作りに特に向いています。
構図の教材
今回構図の考え方について解説しましたが、最後にこの記事を書くにあたっての参考文献とプラスアルファの勉強になる教材をご紹介します。
風景画の描き方
本記事の核となる考え方はこの書籍で勉強しました。元が洋書ゆえの独特の読みにくさもあり初心者の方にはおすすめしにくいのですが、個人的には風景画における構図の考え方の本質が解説されている良書だと思います。
イラスト、漫画のための構図の描画教室
伝統的な構図にはどのようなものがあるかを学べる書籍です。構図について勉強し始めたいという初心者の方にも読みやすい一冊だと思います。
リズムとフォース 第3版: 躍動感あるドローイングの描き方
今回解説した構図の考え方は特に風景を描く際に有効です。人物のみの場合や人物が画面の大部分を占める場合においては、経験上構図以上に人物の「ポージング」が画の印象を決める大きな要素になってきます。
そのため、人物を魅力的に描きたいという方はポージングの勉強にも優先的に取り組むべきです。私自身ポージングに対する勉強量はまだ少ないのですが、これまでに触れた中でのおすすめの一冊としてこちらの書籍を紹介しておきます。