この記事では背景の描き方講座室内編と題して、背景イラストレーターである筆者が昼の部屋の描き方を解説します。
背景はキャラクターイラストと違い、理論を押さえればある程度マニュアル式に描けるようになるので、本記事では理論を踏まえた具体的な手順を説明していきます。
ボリュームのある解説ですが、考え方さえ理解できれば再現性高めなのでぜひ最後までお付き合いください。
CLIP STUDIO PAINT
本解説の使用ソフトは『CLIP STUDIO PAINT PRO』です。
※買い切り版でも大きな機能アップデート時には優待価格でアップデート可能なので長く使うなら「無期限版(一括払い)」がお得です!
以下の6ステップに分けて解説していきます。
STEP1 パース(画角)の設定
まずはじめに、パースすなわちキャンバスの画角を決めます。
画角はあとから変えることが難しいので、一番はじめに決めておくのがポイントです。
ここからはCLIP STUDIO PAINTの3D機能を使った手法でキャンバスの画角を設定していきます。
慣れている方は感覚でパースを引いても良いのですが、慣れていない初心者の方ほど、最初はこの手法で正確にパースを引いてパース感を養うことをおすすめします。
まず任意のサイズで新規キャンバスを作成したら、立方体の3Dオブジェクトを表示させます。
次にパース値を以下の記事内にある計算フォームを使って計算します。
計算フォームでは任意の画角を入れるとそれに応じたパース値が計算されます(今回はキャンバスサイズ4093×2894px、横画角60°としました)。
今回は横画角を60°としましたが、画面を望遠にしたい場合は30°以下、さらに広角にしたい場合は70°以上にすると良いでしょう。
3Dのサブツール詳細>>カメラの中にあるパースの項目に上で計算したパース値を入れます。
これでこの立方体の横画角が60°になったので、カメラアングルを動かすことで横画角60°のパースを自由に配置することができます。
このように3Dの立方体を用意しておくとあとで角度がついた家具のパースを取るのがかなりラクになります。
まずは部屋の大枠(壁、天井、床)のパースを決めます。
3D立方体のカメラを動かして、今回は以下のようなパースにしました。
この3Dのパース定規は最後まで使うので、動かしたり消さないようにロックをかけたり複製しておきましょう。
そして部屋の大枠である壁、天井、床を、デフォルトの「マジックペン」と「バケツツール」を使ってパーツごとにレイヤー分けします。
色はあとで考えるので、現時点ではレイヤーが分かれていることが判別できればどんな色を置いてもOKです。レイヤー分けができたら色がはみ出さないように「透明ピクセルをロック」しておきます。
部屋の大枠のパースを決めるときには、アイレベルの高さと部屋の縮尺も同時に決めておくのがポイントです。
決め方としてはまず、パース定規のグリッドを表示させグリッドハンドルを部屋の隅に重なるように動かします。
こうすることでグリッドが壁と床に沿うので、グリッドのひと目盛りを任意の長さに仮定すれば家具を描くときに縮尺が測れるようになります。
今回はひと目盛りを30cmと仮定して、以下のようにアイレベルが110cm、部屋の高さが240cm、横幅が300cmになるようにしました。
グリッドのひと目盛りは任意の長さに仮定してOKですが、室内を描くときには30cmにしておくとあとで家具が描きやすいです。
これでパースの設定は完了です。
STEP2 光源の設定
本来の制作手順であれば上で決めた部屋の大枠にどう家具を配置するかをラフとして考えるのですが、本記事では家具が無い状態の部屋の塗り方から説明したいので、次に塗りに必要な光源を設定します。
今回は窓から入る太陽光を光源にしようと思うので、ここで窓を描いておきます。
窓を描く具体的な手順は以下の記事を参照してください(ここではレイヤー分けまででOKです)。
上の記事の描き方で、以下のような窓を配置しました。
今回はこの窓から差し込む光を光源とします。
STEP3 壁、天井、床を描く
光源が設定できたので、次に部屋の大枠である壁、天井、床に色と陰影を付けていきます。
塗りの基本 ~固有色と陰影~
ここからは以下の手順で色と陰影を付けます。
- 固有色
- オクルージョンシャドウ
- フォームシャドウ(+フォールオフ)
- キャストシャドウ
- 明部、ハイライト
- 反射光
- 質感
基本的にこの手順を押さえればどんな物体もある程度のクオリティで塗れるようになります。
① 固有色
それではさっそく固有色から考えていきましょう。
固有色とは、白色の光源(身近なものだと昼の太陽光や室内の白色ライト)によって照らされたときの物体固有の色を指しますが、本記事で紹介する手法においては以下のように定義します。
固有色 : 白色光に対して一番明るい面と一番暗い面の間に位置する(明るすぎず暗すぎない)面の色
固有色は物体により異なるため、色の選び方を具体的な数値で示すのはなかなか難しいのですが、コツとしてはHSVカラーサークルの以下の赤線内から選ぶと自然な色合いになると思います。
- 固有色の時点で高彩度な物体は少ないので右上隅の領域は避ける
- 固有色が真っ白、真っ黒な物体はないので左上隅と下端の領域は避ける
以下は上記を踏まえて、壁、天井、床に固有色を置いたものです。
② オクルージョンシャドウ
固有色が置けたら陰影を考えていきます。
室内でも晴れた昼間では空からの青い散乱光の影響を受けるので、今回は以下のような青みをおびた色をかげ色として使っていきます。
まずは最も考えやすいオクルージョンシャドウから付けていきます。
オクルージョンシャドウは物と物が接している部分にできるかげです。
表現する手法としては、まず乗算レイヤーをパーツ分けしたレイヤーにクリッピング(またはマスク)して「C油彩」でかげ色をのせます。
かげについては今後も「C油彩」を使いますが、なければ濃度の高いブラシで代用可能です。
次に今置いたかげ色を「ぼかしツール」でぼかし、
レイヤーの不透明度を少し下げてかげの濃さを調整します。
そして、この処理を壁、天井、床すべての境界部分に施したものが以下になります。
これでオクルージョンシャドウの表現は完了です。
③ フォームシャドウ(+フォールオフ)
次にフォームシャドウを考えます。
フォームシャドウを付けるときは、物体のそれぞれの面が光源からどのくらい光を受けるかを考えるのがポイントです。
今回のような室内の場合であれば、光源からの光は窓から入る直進光と散乱光で切り分けると捉えやすいです。
2つの光を合わせて考えると、この部屋の各面の明るさ関係は以下のようになることがわかります。
これを表現する手法としては、先ほどのオクルージョンシャドウと同じく乗算レイヤーとかげ色を使います。
乗算レイヤーを固有色のレイヤーにクリッピング(またはマスク)したら「バケツツール」でかげ色をのせ、
レイヤーの不透明度でかげの濃さを調整します。
この処理を前面に施したものが以下になります。
先ほど考えた各面の明るさ関係を元に、レイヤーの不透明度は以下のようにしています。
現時点では面ごとに明るさの関係を決めただけなので、ここから更に散乱光の挙動も反映させます。
散乱光は窓の形をした面光源から発せられていると捉えると、以下のような範囲が散乱光によって強く照らされることが想像できます。
表現する手法としては、壁と天井については先ほど置いたかげ色を部分的に消して相対的に明るくします。
「C油彩」を不透明色にして(または消しゴムツールで)かげ色を削ったら、
「ぼかしツール」で境界をぼかします。
床に関しては、先ほどかげ色を置いていないので、乗算レイヤーでかげ色を置きます。
これまでと同じく「C油彩」でかげ色をのせたら、
エッジをぼかし、
レイヤーの不透明度を下げてかげの濃さを調整します。
右側の壁と天井のかげ色も、左側の壁同様に削ったものが以下になります。
以上で、フォームシャドウ+フォールオフの表現は完了です。
④ キャストシャドウ
最後のかげとしてキャストシャドウを考えます。
キャストシャドウは直進光が物体によって遮られることによってできる影です。
キャストシャドウは厳密にパースを取らなくても違和感は出にくいですが、本記事ではきちんとパースを取って描く方法を紹介します。
まずはキャストシャドウを描くためのパースを以下の手順で設定します。
- アイレベル上に任意の影の消失点をとります。どこにとるかで光源の首振り方向の角度が変わります。
- 影の消失点から上に垂線を引きます。この垂線はディスプレイ上の垂線ではなくパース空間における垂線です。
- ②の垂線上に任意の太陽光の消失点をとります。どこにとるかで光源のお辞儀方向の角度が変わります。
今回は影と太陽光の消失点は上のようにとりました。
このパースを使ってキャストシャドウの輪郭を割り出します。
まずは太陽光の消失点と窓ガラスの頂点を結ぶ直線(オレンジ線)を引きます。
次に窓の頂点から下ろした垂線(赤線)と床とでできる交点をとります。
その交点と影の消失点を通る直線(青線)を引きます。
最後に、オレンジ線と青線の交点を結べばキャストシャドウの輪郭を割り出すことができます。
ここではきっちりやりましたが、少し面倒なので要領が掴めたら感覚パースでもOKです。
今回の部屋においては輪郭の内側部分に直進光が当たるので、それ以外の部分がすべてキャストシャドウということになります。
なので影となる部分に乗算レイヤーでかげ色をのせ、
レイヤーの不透明度で濃さを調整します。
キャストシャドウは直進光を遮る物体から離れるほど輪郭がぼけるので、輪郭は「ぼかしツール」でぼかします。
これでキャストシャドウの表現は完了です。
⑤ 明部、ハイライト
かげを付け終わったので、今度は明るい部分を考えていきます。
昼間の太陽光はわずかに黄色みをおびた白なので、今回は以下のような少し黄色みがかった白を明部色として使っていきます。
まずは明部として、床の直進光が当たっている部分の明るさを強調します。
先ほどのキャストシャドウの領域を選択(Ctrlキーを押しながらレイヤーをクリック)したら、領域を反転させて新規の覆い焼き(発光)レイヤーにマスクを作成します。
そして「不透明水彩」ブラシを使って軽いタッチで明部色をのせ、
筆跡をぼかして消してから、レイヤーの不透明度を下げて明るさを調整します。
同様にして散乱光によって明るくなる部分も強調します。
考え方としては、中間の明るさである固有色に対して暗い色を乗算、明るい色を覆い焼き(発光)で重ねると捉えてください。
以上で明部、ハイライトの表現は完了です。
⑥ 反射光
かげと明部の表現が終わったので、次に反射光を考えます。
反射自体はあらゆる箇所で起こっていますがすべてを考慮しているときりがないので、絵を描く上では基本的に、反射光の影響を受けやすい白色の物体への反射を意識できると良いでしょう。
そこでここでは床から壁への反射光を考えます。
反射光の表現にはオーバーレイレイヤーを使うので、色が強く出過ぎないように反射する物体の固有色を少し明るくした色を反射色として使います。
まず「不透明水彩」ブラシで以下のように反射色をのせます。基本的に反射光は遠くまで届かないので、天井や壁の上側までは描かないようにします。
「ぼかしツール」で筆跡をぼかして、レイヤーの不透明度で濃さを調整します。
これで反射光の表現は完了です。
⑦ 質感
最後に物体の質感を表現していきます。
今回壁と天井は質感があったとしてもカメラからの距離的に見えにくいと思うので、ここでは床のみに質感を加えます。
基本的に質感は、近景の物体と中遠景の質感構造の大きな物体に加えると良いでしょう。
はじめに部屋の大枠のパースを使って15cm幅の床板を描きました。このとき使用したブラシは「C油彩」です。
次に床板の木目を描き込んでいきます。
木目を描き込みやすくするために、これまでに重ねた合成レイヤーは一旦非表示にして固有色の状態にしておきます。そして、質感を描く新規レイヤーは合成レイヤーの影響を受けるようにその下に作成します。
床の固有色に対して少し暗めかつ色相を赤側に振った色と、固有色に対して少し明るめかつ色相を緑側に振った色の2色を用意します。
まずは暗い色を選び、デフォルトの「油彩平筆」ブラシを使って木目を描きます。
次に明るい色を選び、先ほどよりもブラシサイズを少し小さくして木目を描きます。
非表示にしていた合成レイヤーを表示させたら、部屋の大枠(壁、天井、床)は完成です。
このままだと寂しく感じるというときには、幅木(壁と床の間)や梁(壁と天井の間)を足すともう少し画面をリッチにできます。
STEP4 家具を描く
部屋の大枠ができたので、ここからは家具を描いていきます。
家具も描くときの考え方は先ほどと同じです。
家具を描く手順についてはモチーフごとに以下の記事にまとめました。
上記の家具だけだと少し寂しいので、今回は机上の小物、マット、クッション、エアコン、額なども加えました。
さらに情報量を増やしたい場合には、クローゼット、テレビ、ごみ箱、観葉植物などがベターなアイテムかと思います。
STEP5 窓の外を描く
次に窓から見える屋外の部分を描きます。
まず部屋の大枠のパースを使って、屋外の建物と木を以下のようにレイヤー分けしました。
次に固有色を置き、
これまでと同じ手順で陰影を付けます。
屋外に関してはここからさらに空気遠近の処理を施します。
空の色をスポイトしたら「不透明水彩」ブラシで空以外の部分に軽くのせ、
「ぼかしツール」で筆跡を消したらレイヤーの不透明度を下げて調整します。
これで窓の外は完成です。
明るさの調整
窓の外が描けたら、室内と室外の明るさの整合性をとります。
現状は室内と室外が同じ明るさで描かれているのですが、ヒトの眼やカメラは一度に受け取れる明るさに範囲(ダイナミックレンジ)があるため、実際は室内か室外のどちらかが明るく(暗い)なります。
そのため、ダイナミックレンジを窓の外に合わせた場合には室内が暗くなり、
ダイナミックレンジを室内に合わせた場合には窓の外が明るくなります。
今回は室内を見せたいので、後者の場合を採用します。
STEP6 効果
最後の仕上げとして、光の効果を入れていきます。
グレア
まず明るい部分を見たときにその周辺が明るく見える現象を表現します。
加算(発光)レイヤーと「不透明水彩」ブラシを使って、明部色を窓の縁の部分にのせます。
その後「ぼかしツール」で筆跡が見えないように馴染ませ、レイヤーの不透明度を調整します。
この処理を家具の明るい部分にも局所的に行います。
周辺光量の低下
次に、ヒトの水晶体やカメラのレンズを通すと画面の周辺ほど暗くなる光学現象を表現します。
乗算レイヤーと「C油彩」ブラシを使って、かげ色を以下のように画面の四隅にのせます。
その後「ぼかしツール」でぼかしたら、
レイヤーの不透明度を下げて調整します。
以上で昼の部屋は完成です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!