絵の描き方やテクニックを解説したコンテンツは多く存在しますが、いざ勉強したいと思ったときに何から手をつければ良いか迷う方も多いのではないでしょうか?
この記事では、独学でイラスト制作を始めてフリーランスのイラストレーターになった筆者の経験を踏まえて、絵が上手くなるための考え方と勉強法を紹介します。
絵の構成要素
まずは絵がどのような要素で構成されているのかという大枠から説明していきます。
絵を描くことはよく料理に例えられるのですが、ここで説明するのは料理で言うと食材に当たります。
食材の説明なんて必要?と思うかもしれませんが、何も知らずに絵を描き始めてしまうと、描いた絵が実はゲテモノ料理や闇鍋だった!なんてことになりかねません。
そうならないためにも、まずは大前提となる部分からしっかり学んでいきましょう!
絵というものは下の図の6つの要素から成っていて、下にある要素ほど絵のクオリティに与える影響が大きくなります。(参考文献「背景画の大原則」)
各要素の勉強方法については後で触れるので、以下でまず各要素の特徴を理解しましょう!
① テーマ、設定
テーマはその絵で何を伝えたい・表現したいか、設定は時代、場所、季節、天気、時間帯などを指します。
下の絵は筆者の作品ですが、伝えたいテーマとしては「初雪の静けさと美しさ」で、設定は「現代の冬の早朝の駅のホーム」です。
テーマと設定はきちんと紐づけることでテーマが伝わりやすくなります。
例えばこのイラストの場合は、初雪なので季節は冬で、静けさを表現するために時間帯は人が少ない早朝を選びました。そして多くの人がより共感しやすいように、場所は通勤通学で誰もが利用したことのある駅のホーム、時代設定は過去や未来、SF、ファンタジーではなく現代にしています。
デッサンや色を塗る技術がいくらあっても、テーマと設定がわかりにくかったり自分本位なものだと伝わらない絵になってしまうので、テーマと設定は最も重要な要素と言えます。
② 構図
構図は絵の中における物の配置のことを指します。
テーマ、設定と同じくデッサンや色塗りが上手くても構図ひとつで絵の印象は良くも悪くもなります。
先ほどの絵も、実はキャラクターや駅の配置は観る人にテーマが伝わりやすいように考えて決めています。
③ 輪郭
輪郭は絵の中にある輪郭線やパースを指します。
漫画の絵がそうであるように、私たちは明暗や色が無くても物の輪郭線だけでその形状を認識することができるので、明暗や色よりも輪郭の方が絵のクオリティへの影響が大きいと言えます。
そのためどれだけ明暗や色に気を配っても、デッサンやパースが狂っていれば絵のクオリティは下がってしまいます。
④ 明暗
白黒写真がそうであるように、私たちは色がない明暗の変化だけでも物を認識することができます。
下の絵は元の絵から明暗はそのままに色味だけ変えたものになりますが、それでも物自体は認識することができるので色よりも明暗の方が絵のクオリティに与える影響が大きいと言えます。
⑤ 色
ここまでで色は輪郭や明暗よりも絵に与える影響が小さいと説明してきましたが、色がないと表現できないこともあります。
時間帯や温度感などがその例で、下の絵において白黒では時間帯がわかりにくいですが色があると朝であることがわかりやすくなっています。
⑥ タッチ
タッチはブラシやキャンバスのにじみ、かすれ、ぼかしなどのテクスチャ感を指します。
絵のクオリティへの影響度としては最も小さい要素なのですが、タッチを使い分ければデジタルイラスト制作でもアナログ風に仕上げたりすることができます。
何からやれば良い?
ここまでで絵の構成要素について説明しました。
絵の上達にはこれらの要素をそれぞれ学んでいくことが必要になるですが、ここからは筆者のおすすめの取り組み順と取り組み方を紹介していきます。
画力とは
本題に入る前に、また少しだけ前提となる話をさせてください。
絵の上手さを表す際に「画力」という言葉が使われますが、画力とはどういった力のことを指しているのでしょうか?
画力というと手を動かす技能に注目しがちですが、実は画力は「観る力」と「描く力」の2つから成っています。
観る力とは、「描きたいイメージと自身が描いた絵のギャップを見分ける力」です。
もう少し別の言い方をすると「世の中にある上手い絵と自分の絵で何が違うかがわかる力」です。
描く力は、「そのギャップを埋めるための練習を通して身に付けた力」です。
そして観る力と描く力はどちらか一方だけが大きく伸びるということがないので、画力は両者をバランス良く鍛えなければ上がりません。
そこで、筆者が考える画力を上げるための理想的なフローは以下の1~3を繰り返すというのものです。
- 描きたいイメージを決めて絵を描く
- 描きたいイメージと描いた絵のギャップを見分ける
- ギャップを埋めるための学習を行う
ここから先はこの考え方を前提に話を進めていきます!
以下の記事ではこの考え方をもう少し詳しく解説しているので興味のある方は合わせてご覧ください。
目標の絵柄を決めよう
上で説明した画力を上げるためのフローにおける「描きたいイメージ」は、上級者であれば自身で設定することもできるのですが、最初はその設定自体が難しいです。
そこでまずは描きたいイメージとして目標の絵柄となるクリエイターや映像作品をひとつ決めましょう!
目標にしたいクリエイターや映像作品が複数ある場合は、まずはどれかひとつについて取り組み、画力をある程度身に付けてから他のものに取り組むと良いでしょう。
絵柄は料理で言うと和食、洋食、中華、イタリアン、フレンチ、エスニックといった系統を指し、それぞれで調理法が異なるように絵柄が違えば描き方も異なります。
そのため、最初に絵柄を決めておくのは後戻りを減らして早く上達するためにはとても大切なことです。
要素③~⑥の勉強法
前置きが長くなりましたが、ここからはいよいよ絵を構成する要素をどのように学んでいくかを説明します。
まず絵を構成する6つの要素の中のどれから取り組むのかについては、順当に考えれば絵のクオリティに与える影響が大きいものつまり「①テーマ、設定」から取り組むべきなのですが、要素①②は勉強の難度が高いので、はじめは要素③~⑥から学ぶことをおすすめします。
そして要素③~⑥を学ぶのにおすすめの勉強法は模写で、目標の絵柄として設定したクリエイターや映像作品のイラストをお手本として描き写す練習法になります。
ここからは上で説明した画力を上げるためのフローに沿って、1.模写→2.差を観察→3.差を埋めるための勉強 を繰り返していきます。
模写でこのフローをまわすときの具体的なポイントは以下の記事の「【STEP3】目標の絵柄を分析しよう」のパートで解説しているので、必ず読んでから模写に取り組むようにしてください。
最初は観る力も描く力もないためできないことが多いと思いますが、まずは根気強く模写を続けてみましょう。
ただし何も考えずにただ描いて枚数を重ねるだけでは画力は上がらないので、ここまでの内容をいかに意識しながら取り組めるかがカギになります。
模写で目標の絵柄の制作手順を掴んだら、自身の作品を描くことにもチャレンジしてみましょう。
その際も画力を上げるためのフローに沿って、1.絵を描く→2.思うように描けなかった部分を見つける→その部分が描けるようになるための勉強 の流れで取り組むことが重要です。
自身の作品を描くときの具体的なポイントは以下の記事の「【STEP4】自分の作品を描いてみよう」のパートで解説しています。
また自身の作品を描くにあたっては、絵を構成する要素について以下の理論を学んだ上で取り組むと上達が早くなると思います。
輪郭
明暗
色
要素①②の勉強法
模写と自身の作品の制作を何回か繰り返したら、要素①②についても取り組んでみましょう。
まず「②構図」に関しては、以下の記事で理論を学びましょう。
構図は観て知識や経験を増やすことが学習になるので、普段からイラストや映像作品、日常風景の中で良いと思ったシーンはなぜ良いのかを考えられると良いと思います。
ただし観る力と描く力は相互に影響しているので、観て学んだことは自身の作品制作で試してみて描く力も必ず鍛えるようにしましょう。
その際も画力を上げるためのフローに沿って、描いた後に構図が上手く活用できたかを検証することが大切です。
「①テーマ、設定」については、趣味で楽しく絵を描きたいだけであれば自身が好きなもので描けば良いのですが、少しでも評価されたい・仕事にしたいのであれば勉強する必要があります。
構図と同じく観て知識や経験を増やすことが学習になるので、イラストや映像作品のテーマと設定は何なのかを考えながら観れると良いと思います。
複雑なテーマと設定を表現するには技術と経験が必要になるので、最初はとにかくシンプルなテーマと設定を意識して取り組みましょう。
テーマや設定、構図のインスピレーションを得るには、イラストや映像作品の他にも写真集やアニメの設定資料集、pinterestなどが役立つと思います。
絵が上手くなるために一番大切なこと
絵が上手くなるために一番大切なことは「続けること」です。
ただし、何も考えずに描き続けるのと考えながら描き続けるのとではその上達スピードに大きな差が生まれます。
この記事ではその描き続ける際の考え方を紹介しました。
もちろん勉強の仕方は人ぞれぞれなので、今回の内容も最終的には自身に合うと感じた部分だけ活用してもらえればと思います。
基本的に絵は数週間や数か月では大きく上達しませんが、やればやるだけ成果が出やすくもあるので、この記事を読んでいる方々には楽しむ気持ちを忘れずに長く絵を続けてもらえたら嬉しく思います。